貧乏子沢山リアル日記

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うつくしくてきたなくてくさい(古紙回収のバイトをしていた中学生頃の話)

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娘が中2になる。

これはわたしが中学生の頃に拾った文庫本。

20年くらい前に、誰かが「もう要らない」と捨てた本。


母子家庭で育った。

10代の時、母親の彼氏が古紙回収業者だった。

中2くらいから月に一度アルバイトをさせてもらっていた。

日曜の朝9時からトラックに乗って、新聞、雑誌、段ボールを荷台に積むのを手伝った。

母親の彼氏は50歳くらいの気のいいおっちゃんで、さかいくんといった。

犬を飼ってて、犬といっしょに車に乗って仕事をする日もあった。犬のラッキーはもうずいぶん前に死んでしまったらしい。

わたしは動物と仲良くなるのは苦手なのでラッキーと仲良くなった記憶はない。噛まれた記憶もないが。

ゴミ捨て場を次々まわって、わたしがゴミ捨て場に置かれた新聞たちを拾って、荷台の上のさかいくんに渡す。天気のいい日は気持ちが良かった。

ひと通り回収し終えたら山積みになった古紙たちが荷台から崩れ落ちないよう、さかいくんがロープで縛った。

最後には「万力結び」という謎の縛り方で解けないようにきつく結ぶ。何度教えてもらっても万力結びはマスター出来なかった。縄師になるのは無理そうだ。

いつもだいたいお昼前には終わって、3000円のバイト代をもらえた。

朝が苦手なわたしは日曜の朝に起きるのは大変だったけど、まぁまぁ割のいいバイトだった。

高一くらいまでは月イチで手伝わせてもらっていた。と思う。

古紙回収にはマンガ雑誌や小説も捨てられていて、さかいくんは「欲しいのがあったら持ってっていい」と言ってくれた。ほんとはダメだったと思うけど。

遠慮なく読みたいものを持ち帰った。

マンガの単行本はもちろん、レディコミのような雑誌や、文庫本、英和辞典なんかを拾ったこともあった。

とはいえ、人気があるとか新しいとかの書籍は古本屋に売られるだろうし、タイミングもあるので、そこまで毎回収穫があったわけではないのだけど。

あと、あんまりドストレートなエロ本はさすがにさかいくんの手前持ち帰れなかった。

さかいくんはたまに自分用にエロ本を持ち帰っていた。エロ本は売れるから売るとか言っていたけど。


当時わたしは大変きたない部屋に住んでいた。

今も掃除とか片付けがものすごく苦手なので、じゅうぶんに部屋は汚いのだけど、当時のうちは「ゴミ屋敷」だった。

新聞とジャンプとマガジンとサンデーetc(近所の喫茶店から一週間遅れでもらってきていた)といった雑誌が腰くらいの位置まで壁際にうず高く積まれ、ペットボトルやコンビニ弁当のカラの入ったゴミ袋がそこら中にあった。

タバコを吸っていた。

よくわからない書類やガラクタがたくさんあって、今思えばあの部屋の中には必要なものなどほとんどなくて、捨てなくちゃいけないきたなくてくさいものばかりだった。なのにきたない本を拾ってきていたのだ。ダメ人間はゴミを捨てられない。部屋は散らかる一方だった。

あのうちに家事らしい家事をする人間はいなかった。

中学生のわたしは、自分のうちが大好きで大嫌いで誇らしくて恥ずかしかった。

中2から携帯電話を持っていたのでケータイをいじっていることももちろん多かったけれど、あの頃はとにかく漫画や本を読んでいれば満足だった。テレビはあんまり観なくて、ご飯を食べる時もいつも活字を眺めていた。

レンタルビデオ屋で借りたビデオもよく観た。

「ベニスに死す」とか「ロリータ」とか、退屈な映画を好んで観ていた。兄は「パルプ・フィクション」が好きだった。

わたしがいっとう好きだったのは岩井俊二の「リリイ・シュシュのすべて」。

母親は昼も夜も家にいたりいなかったりした。と思う。兄がいたけど、コンビニの深夜勤務や新聞配達をしていた。

死ぬほどきたない部屋でひとりで何かを読んだり観たり描いたりそんなことばかりしていたように思う。

自由だった。

まぁ、あまり記憶がないのだけど。

そういう生活だったので、いま中学生の娘が深夜に起きてなんやかんやしていても、つい「まぁいいか」と思ってしまったりもする。良くないんだが。


さかいくんは古い借家で一人暮らしだった。水害の時には非難させてもらった。

色々とお世話になったけど、もうずっと会っていない。

元気かな。

わたしの娘も中2になるので、もし会ったらきっと「昔のアンタにそっくりやな」と言われることだろう。

わたしは、さかいくんの顔ももうあんまり思い出せない。


と思っていたらつい先日、母にさかいくんから電話があったらしい。

別に用事はなく、たま~~にかかってくるのだそうだ。

母とさかいくんは15年くらい前、私が夫と付き合い始めた頃に別れている。わたしが最後に会ったのは、声を聞いたのは何年前だっけ。

元気そうだったらしい。良かった。

引っ越して今は別の市にいるそうだ。

さかいくんが犬のラッキーと住んでいたボロくて狭いあの部屋は、多分、もう誰も住んでいないだろう。